「河原にある石ころの名前を知りたい」という声を聞きます。
石ころの名前を知るためには、いくつかの出版社から出ている岩石図鑑で調べればよさそうですが、いざ身近な河原へ行って石を調べようとすると、なかなか適した図鑑がないのが実状です。
岩石は見た目だけで分類すると非常に多くの種類に分かれてしまうため、動物や植物とは違って、色や形など見た目だけで分類するのが困難なのです。
そのため、岩石は「どのようなものからどのようにしてできたか」という成因によって分類され、そして名称がついています。
ただし、同じ名称(分類)のものであっても、地域が異なると見た目には大きく違って見える岩石があります。
全国版で紹介された岩石を美濃地方で当てはめようとしても、見かけがかなり違い、役に立たないことが多いのです。
例えば、図鑑に安山岩が載っていても、それと実際に目にする安山岩とは、一見違う岩石のように見えてしまいます。
岩石を薄くけずって、光が通過するようにして顕微鏡(偏光顕微鏡)などで観察すると似ているのですが、肉眼ではそこまで詳しく観察できないため、なかなかわからないのが実状のようです。
だからこそ、河原の石の図鑑は、本来は川ごとの図鑑が必要となるのです。実際に、近年は川ごと(多摩川、荒川、京都の川、大阪の川、常願寺川、神通川など)や県別の岩石図鑑(神奈川県、北海道など)が出版されています。
石ころの名前を知るためには
では、河原にある石ころの名前(種類)を知るにはどうすればよいのでしょう。
現在の河原にある石ころは上流にある岩石が削られて流されてきたものですから、その川の上流に分布する岩石が河原の石ころになるのです。
川の上流部にはそれほど多くの種類の岩石が分布しているわけではないため、いくつかの限られた数の岩石を知っていれば、だいたい見当がつきます。
ただし、同じ岩体の岩石でもさまざまな見た目のものがあります。河原の石ころを全部知ろうと思わずに、代表的なものを知ろうと思ったほうがよいでしょう。
そして、その代表的な岩石のどれと似ているのかを観察によってつかむことが大切です。
例えば、長良川はスキー場で知られる大日ヶ岳を源流とし、いくつかの支流と合流して南へ流れています。山崎大橋付近の河原にある石ころは、山崎大橋の上流にある長良川の本流、支流沿いに分布する岩石が反映されます。
長良川とその支流周辺に分布する岩石は、おもに美濃帯堆積岩類(チャート、砂岩、泥岩、石灰岩、玄武岩質溶岩など)とよばれるものです。
そして、それを基盤岩として形成した奥美濃酸性岩類(溶結凝灰岩や花崗岩、花崗斑岩など)や濃飛流紋岩、奥美濃地域の何ヶ所かに分布する第四紀火山岩類(安山岩)などです。
長良川沿いの石ころ
今回は、美濃市の山崎大橋下流左岸の河原で見られる石ころについて、それぞれの石の特徴と写真を載せます。
先ほど紹介したとおり、美濃帯堆積岩類や奥美濃酸性岩類を中心としたラインナップになっています。
チャート、砂岩、泥岩、石灰岩、緑色岩、溶結凝灰岩、花崗岩、花崗斑岩、安山岩の順に紹介します。
初めては少し多いと感じるかもしれませんが、石の特徴を掴むと、次第に見かけたときに「これはチャートだな」「これは花崗岩かな」とわかるようになってくると思います。
関連する記事も付けているので、興味が湧く石があれば、一緒に読んでみてください。
チャート
チャートには、白色・灰色・黒色とそれらが混ざり合ったもの、あずき色、うすい緑色など、さまざまな色があります。この色は、チャートができた当時の海洋環境を表していると考えられています。
ハンマーなどで割るとゼリーのような半透明感がありますが、硬くてハンマーや釘では傷がつきません。
また、よくみると表面に小さな傷・へこみがあり、割れたところはガラスの割れ口のように鋭いです。
他の石と比べて、ややかどのある多角形をしているものが多いです。
チャートは、「岐阜県の石」に指定されている石でもあります。
また、チャートの色についてはこちらで詳しく紹介したいます。
砂岩
砂岩は、灰色から暗い灰色のものが多く、風化してオレンジ色がかるものもあります。
よくみると砂の粒がわかり、ざらざらしている場合があります。黒色の小破片(泥岩)が入ることがあります。砂の粒が並んで、縞模様になることもあります。
ただし、熱変成作用などを受けると、砂の粒がわかりにくくなり、ざらざら感もなくなります。かどのとれた箱型から丸い形が多いです。
泥岩
泥岩は、泥が集まってできた岩石のため、灰色から黒色、つやのない黒色がほとんどで、粒が小さく、よく見ても石をつくる粒は見えません。
灰色の細かな縞模様が見られることがあります。細長い楕円形や扁平なものが多いです。また、表面に割れ口がいくつもみられる場合が多いです。
石灰岩
石灰岩は、白色から灰色で表面がなめらかなものが多いです。表面の傷が白く粉っぽく見えます。他の岩石と比べるとやわらかく、ハンマーやくぎで簡単に傷がつきます。そのため、チョークのように他の石に文字や絵を白く書くことができます。
風化した表面をよく見ると、フズリナなどの化石が浮き上がって見えることがあります。
一般的には、削られやすいため扁平で丸い形をしています。
緑色岩(玄武岩質溶岩など)
緑色岩は、緑色、暗い緑色、黄緑色で、あずき色がかることもあります。
よく見ても結晶の粒は見えないことが多いですが、結晶の粒が大きい場合、光に反射させると細かくキラキラ光るものもあります。表面に幅のせまい割れ目やへこみのあることがあります。いびつな形がふつうで、かどがとれて丸みがあります。
二酸化ケイ素(SiO2)の少ないマグマが海底に噴出した玄武岩類ですが、圧力や熱、熱水などにより変質作用を受けています。変質作用でできた鉱物の多くは緑色なので、全体に緑っぽい色の岩石となります。
溶結凝灰岩
溶結凝灰岩は、緑がかった灰色のものがよく見られますが、白っぽいもの、茶色っぽいもの、黒っぽいものなどいろいろな色のものがあります。
2~5mmの小さい斑晶(鉱物の結晶)がたくさん見られますが、見かけでは三角形などの破片状になっていることが多いです。
見慣れていないと判断しにくい岩石ですが、長さ数cm、幅1cm以下の緑っぽいレンズ状のものが見られる場合は、この岩石であることがはっきりわかります。
このレンズ状のものは、火砕流に含まれている軽石が圧縮されてできたものです。
また、他の岩石の破片(角ばっている)を含んでいるものもあります。かどのとれた箱型から楕円形のものが多いです。
花崗岩
花崗岩は、一見なめらかに見えますが、触ってみると少しざらざらする石です。
わかめご飯のおにぎりのように、黒い粒と白い粒、うすピンク色の粒が、同じような大きさで入っています(等粒状組織)。入っている鉱物は、石英、長石(斜長石、カリ長石)、黒雲母などです。
黒い粒(黒雲母)のところが浅くくぼんでいる場合があります。丸っこい形のものが多いです。
この本では、地球の進化と石の関わりを、かんらん岩・玄武岩・花崗岩の三つの石の物語を通して、わかりやすく解説されています。
花崗斑岩
花崗斑岩は、花崗岩と名前が似ていますが、別の石です。無色透明~灰色っぽく見える石英、白~うすいピンク色の長石(斜長石、カリ長石)、黒っぽい緑色の黒雲母などが、岩石の中に斑点状に入り(斑状組織)、くっきり見えます。
かどのとれた箱型から楕円形のものが多いです。石英の粒が斑点状に入り、他の鉱物は目立たない岩石もあり、石英斑岩とよびます。
安山岩
安山岩は、暗い灰色のものが多いですが、時折白っぽいものもあります。
白色と黒っぽい緑色をしたやや大きい斑点状の結晶(斑晶)がわかるものが多いです。白色の鉱物が長石(斜長石)で、黒っぽい緑色の鉱物が角閃石や輝石です。
ただし、斑晶があまりはっきりしないものもあり、砂岩と見まちがえる場合があります。丸っこい形のものが多いです。
注記
ここでは、岩石を肉眼で判断していますが、本来は岩石を薄くけずって、光が通過するようにして顕微鏡(偏光顕微鏡)などで観察し判断するのです。
そのため、間違って岩石名が書かれてある場合があるかもしれませんが、その場合はお許しください。
また、「川の上流に分布する岩石が河原の石ころになるのです」と書きましたが、「過去から現在にかけて、川の上流に分布する岩石が河原の石ころになるのです」という言い方のほうがより正しいです。
過去には流路が現在とは違っていて、現在は流れ込むことはない上流の岩石が過去には流れ込んでいたということがあります。
そのような場合は、現在その川の流域にはない岩石が河原には存在しているということがあります。
具体的には、過去に流れ込んだ岩石が段丘などに堆積していて、その段丘堆積物が削られて現在の河原に流れ着くということがあるのです。
最初に触れたとおり、図鑑だけではわからないこともありますが、知識を深めるという点ではやはり本も役に立ちます。図鑑や本で見てから、実際に河原へ足を運んで、本に載っている写真と実際の石とを見比べてみるのも面白いです。
こちらの記事で6冊紹介しています。